セクション1で見たとおり、佐渡市では、平成20年(2008年)の1年前、平成19年(2007年)に「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」を作り、以下の基準を満たした米を「佐渡産コシヒカリ・朱鷺と暮らす郷 認証米」(以下「認証米」)で売り出すことを始めました。
<認証基準>
・佐渡で栽培されたお米であること
・「生きものを育む農法」により栽培
・生き物調査を年2回実施(6月・8月)
・農薬・化学肥料を削減した栽培(慣行比5割以上減)
・畦畔(けいはん:あぜ)に除草剤を散布していない(H29年から追加)
こうすることで、安心安全でかつトキの野生復帰を支援するといった付加価値をつけながら農家に収益が上がるようにし、トキが暮らせる自然の生物多様性を取り戻す、という合わせ技の企画なのでした。
ここでは具体的な取組をご紹介します。
◆「生きものを育む農法」
(1)江(え)の設置
田んぼの横に、江を作ります。これは、田んぼに入れる水を温めたり、表面の水を排水したりするためにあります。
同時にこれがトキのえさ場になるわけです。


(2)ふみずたんぼ(冬期湛水(たんすい))
冬期間に、田んぼに水をためておくことを言います。

水をためておくと、マガンやハクチョウなどの水鳥が餌場や休息地として利用し、多様な生物の生息環境が提供されます。イトミミズなどの水生生物が増殖し、健全な水田生態系の再生に繋がります。フンをすれば、それが肥料にもなります。また、雑草抑制の意味もあるそうです。
一方で、ふゆみずたんぼをすると、田んぼが常に湿潤な状態になるため、春先の耕起作業や機械作業の際に、機械が埋もれるなどして作業が難しくなります。
トキのことを考えれば、冬水田んぼにするのに、田んぼ全体に水を張るほどは必要なく、秋の収穫の際についた機械作業や足跡のようなところに水たまりができているぐらいでも構わないそうです。
(3)魚道の設置
低いところにある水路から田んぼに魚が上がってこれるような魚道を作ります。

(4)ビオトープの設置
田んぼの周りに作ることで、田んぼの周りの食物連鎖が多様になり、トキのえさも豊富になります。また、山の保水能力も上がります。
水生植物や微生物の働きにより、田畑からの窒素やリンなどの流出が抑制され、下流の水質の浄化に役立ちます。
雨水の一時貯留機能は、急激な出水(洪水)を緩和し、また貯留された水は渇水時には周辺の湿度維持などに貢献します。

また、小学生や地域住民が自然と触れ合い、生態系について学ぶ貴重なフィールドとなりますし、豊かな自然環境は、地域の景観を向上させ、観光資源としての価値を高めます。



◆生き物調査
生き物調査を認証米づくりの条件の1つにしているのですが、佐渡市で、平成22年(2010年)6月13日に、「生き物調査の日」宣言をして6月と8月に、農家だけではなく、子どもたちや住民も参加して全島で調査をするようになりました。
こうすることで、トキのこと、自然環境のことを、専門家だけでなく住民や子どもも一緒に取り組み、考える雰囲気作りもできているわけです。
◆農薬・化学肥料を削減した栽培(慣行比5割以上減)+◆畦畔に除草剤を散布していない(H29年(2017年)から追加)
特に、畔を見ると、佐渡の田んぼと他地域の田んぼとでは見た目が違います。
他地域の田んぼの畔は除草剤などを使って枯れた雑草の黄色が際立ちますが、除草剤を使わない佐渡の田んぼの畔は、草刈りがされ、緑色です。田んぼの畔で草刈りをしている光景が佐渡ではよく見られます。
除草剤を使わないことで、田んぼに集まる虫や動物が多様に増えます。
これがトキにはいいし、安心安全なお米にもなります。
その分、田んぼの管理には農家さんが大変なのですが、認証米になるために農家さんが取り組んでいます。
なお、畔に除草剤をまかず草刈りをする、というのは、認証米のことで始めたのではなく、もともと佐渡のお米作り、田んぼづくりでは草刈りが周流だったということがあるようです。
◆「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度から学ぶこと
認証米についての話を聞いて、私自身がなるほどなーと思ったのは、トキを復帰させ野生に定着させることを、佐渡の自然環境や地域経済、そして子どもや住民の学びをリンクさせていることです。
こうすれば、トキを守ることは、佐渡や佐渡に住む人たちのためにもなると思えます。
ですから、佐渡に来て、なかなかトキと出会えなくても、田んぼを見てください。畔には草が生え、水のたまっているところには虫や水生生物がいます。こうした場所で、「トキと暮らす郷」を感じてみてください。
今回は、「朱鷺と暮らす郷づくり」認証制度の具体例とその意義をお話ししました。
次回は、 世界農業遺産(GIAHS)に登録されたことと「トキ」との関連についてお話します。
コメント