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1.3 広がるトキの野生定着

前回、トキが絶滅の危機から復活した奇跡の物語をお話ししました。
今回は、現在のトキの状況と、これからの展望についてお話しします。

◆「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」
トキを増やすためには、オス・メスのつがいがいればいいだけではなく、トキを頂点とした生態系を多種多様にしていくことが大事だとわかりました。

一方、佐渡では農業の危機が1994年から2000年初頭に訪れていました
人口減少とコメの消費量の落ち込み、また平成16年(2004年)の台風被害もありました。
平成17(2005年)~平成19年(2007年)の佐渡米は、毎年5000トンの売れ残りが出てしまいました。
加えて、国がお米作りに関して生産調整をするので、農家が稲作をしなくなり始め、こうしたことから、耕作放棄地が増加しました。

田んぼが消えると、生き物(カエル、ドジョウ、イモリ・・)が消えます。
生き物の多様性が消えます。
それは、トキのえさ場がなくなることを意味します。

そこで佐渡市では、平成20年(2008年)の1年前、平成19年(2007年)に「朱鷺と暮らす郷づくり認証制度」を作り、以下の基準を満たした米を「佐渡産コシヒカリ・朱鷺と暮らす郷 認証米」(以下「認証米」)で売り出すことを始めました

<基準>
・佐渡で栽培されたお米であること
・「生きものを育む農法」により栽培
・生き物調査を年2回実施(6月・8月)
・農薬・化学肥料を削減した栽培(慣行比5割以上減)
・畦畔に除草剤を散布していない(H29年から追加)

こうすることで、安心安全でかつトキの野生復帰を支援するといった付加価値をつけながら農家に収益が上がるようにし、トキが暮らせる自然の生物多様性を取り戻す、という合わせ技の企画なのでした。

これは、別のセクションでもう少し詳しくお話しますが、平成19年(2007年)の認証制度で翌年平成20年(2008年)に認証米の第1号が販売され、同年トキの初放鳥とあいまって、2008年以降、佐渡米の売れ残りがゼロになる快挙となりました。
つまり、作れば必ず売れるという状況になったのでした。(もちろん、恐らく、販売価格や農家さんの収入は別問題だと思います)
ともあれ、佐渡市の認証米制度により、トキが暮らせる環境が、生息環境としても社会環境としても佐渡で整っていったのです。

◆世界のトキ、今
現在、主な生息地は中国、日本、韓国です。
ほとんどが中国(陝西省)で、約1万羽のトキがいると推定されています。

◆日本での飼育
<佐渡>
佐渡トキ保護センター、野生復帰ステーション、佐渡市トキふれあい施設
<分散飼育地>(鳥インフルエンザなどの感染症リスク分散のため)
長岡市トキ分散飼育センター、多摩動物公園、いしかわ動物園、出雲市トキ分散飼育センター

◆モニタリング調査
2008年の第1回放鳥以来、モニタリング調査が行われています。
環境省、新潟大学、市民ボランティアなどが協力して、トキを見守っています。
 *ちょっと付け加えると、私たちのような一般の方は、遠くから見るぐらいにして、トキを探しにいくようなことはしない方がいいでしょう。
 「1.2 トキの野生定着への道」のところで紹介しましたが、1968年にヘリコプターで近づいてトキを驚かせてしまって、巣を捨ててしまったということもあります。トキの巣を探すようなことは、トキを怖がらせることになるでしょう。
 そして、多分ですが、いつも調査している人のことはトキも見ていて、危害を加えないとわかって慣れているのかもしれません。そういう方たちにお任せすることが大事だと思います。

(1)生存状況の確認
野生トキには足環をつけて個体識別します。毎年ヒナ30羽を目標に、塩化ビニル製のカラーリングと金属製のナンバリングをつけます。
アニマルマーカー(羽に色を付ける)で遠くからも識別できるようにしています。

(2)繁殖調査
90~100ペア程度の繁殖状況を追跡調査しています。
 ① 繁殖行動、これから繁殖するぞとわかるトキの動きは「相互羽繕い」や「擬交尾」です。
 ② 営巣場所の特定は、「枝運び」や「草運び」の行動を見つけます。
 ③ ②で巣の場所がわかったら、繁殖状況を観察します。「抱卵」や卵からかえった「ふ化」を観察します。

(3)足環装着 ふ化後18~24日程度
 ① 親鳥がいないときに、営巣木に上りヒナを捕獲します。木の枝から籠に入れたヒナを下まで下ろします。同時に、巣のサイズも測って記録します。
 ② 下ろしたヒナに、獣医師が足環を装着し、身体計測し、健康状態を確認します。その後、カゴに乗せて上げて巣に戻してあげます。
 ③ 営巣木の幹に、ポリカーボネイトの波板を巻き付け装着します。これで、巣を襲うテンに登れないようにするのです。そして、離れて、親鳥が巣に返ってくるのを確認して終わります。

 *ちなみに、トキの天敵は、営巣木に上ってヒナを襲うテン、卵やヒナを襲うカラス、成長になってからも猛禽類のオオスノリといった大型の鳥です。テンによる被害が、2020年に確認されたため、木の幹にポリカーボネイトの波板を巻き付けるようになりました。これがあれば、滑って木を登れなくなるわけです。テンは、木の苗を食べてしまうサドウサギの駆除のために昭和34年(1959年)に島外から入れられた動物でした。

そのほか、毎年6月下旬~7月上旬に、佐渡島内のどこにトキがいるかの分布を調べたり、トキが何羽いるかを、ねぐらから飛び立つ数で調べたりしています。

◆繁殖の成功と課題
2012年に初めて繁殖成功してから、2017年まで「巣立ちヒナ数」「巣立ち率」は増加しました。佐渡の個体数は2022年あたりから500羽を超えて頭打ちになっています。
そうした原因は、高密度化による個体間干渉、天敵による捕食(カラス、テン、猛禽類)、天候の影響などから考える必要があります。

*ちなみに、モニタリングする方は「自立」と「巣立ち」を分けています。自立はもちろん、自分でエサを取るなりして生きていけることですが、「巣立ち」は巣を観察したときに、巣から足を出しているヒナを「巣立ちした」と判断するそうです。

◆本州への展開
本州では、トキの野生定着に向けて、A地域とB地域にわけて取り組んでいます。
A地域:放鳥を目指す
・石川県と能登9市町(2026年、石川県羽咋(はくい)市で放鳥予定)
・島根県出雲市
B地域:来たら定着できるようにする
・宮城県登米市
・秋田県にかほ市
・関東18市町(コウノトリ・トキの舞う関東自治体フォーラム)

別のところで書きますが、トキが繁殖できる環境にするには、その地の自然環境の状態や、農業のあり方を大きく変更する必要が出てきます。
佐渡は、「認証米」取組などで、生物多様性を高めたり、自然との共生という佐渡の価値向上につなげてきました。
良いことではありますが、農薬を半分にする、畔に除草剤を使わないなど、思い切った変更をしないといけないことでもあります。
ですから、すぐどこでも取り組めるものでもないわけで、A地域、B地域のように、取り組んでくれる地域に限定して進めているわけです。

◆国際交流
日本・中国・韓国の3か国で、トキを通じた交流が続いています。
2018年5月:中国陝西省洋県で第1回日中韓トキ国際フォーラム
2019年7月:韓国ソウル市で第2回
2024年3月:中韓トキ国際フォーラム
2024年6月:ヨウヨウ・ヤンヤン贈呈25周年記念式典(佐渡・両津)

ちなみに、年に中国から贈られたヨウヨウ、ヤンヤン、このつがいから生まれたユウユウは2025年現在はどうなっているかというと、ヨウヨウは2025年現在29歳。日本国内最高齢です。
ヤンヤンは2021年に亡くなりました。
ユウユウは健在です。
世界最高齢記録は、中国北京動物園の「ピンピン」(オス)で39歳(2025年現在)。27羽の子どもを誕生させました。

◆トキ野生復帰ロードマップ
政府は2021年、ロードマップを策定しました。
ステップ1(〜2025年頃)
・佐渡:過密にならない、遺伝的多様性を維持
・本州:環境整備推進
いよいよ、ステップ2に向かっていて、2026年は、石川県で放鳥の予定だそうです。

ステップ2(〜2035年頃)
・佐渡:遺伝的多様性を維持し存続
・本州:トキが定着、繁殖成功

ステップ3(最終目標)
・成熟個体1000羽以上
・複数の地域個体群の確立
・遺伝的交流
・過密にならない

◆トキを守る法律
トキは環境省の出しているレッドリストに入っていて、「絶滅危惧ⅠA類」です。
日本の法律では「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」という法律で、トキは絶滅危惧種の中の「国内希少野生動植物種」とされています。
この法律では、してはいけないことが規定されています。
  ① 捕獲、採取、殺傷、損傷の禁止
これは当然ですね。
  ② 譲渡(ゆずりわた)し、引取りの禁止
例えば、トキの羽を拾って自分で持ち帰ってもかまいませんが、これを誰かにあげるとか、誰かからもらうというのは法律違反です。
お金をやり取りしなくても、気軽にあげたり、もらったりもだめです。
罰則としては、個人だと「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、又はこれの併科」、法人だと「1億円以下の罰金」だそうです。
  ③ 輸出入の禁止
  ④ 販売・頒布目的の陳列、広告の禁止

トキは、こうした法律で守られています。

つまり、「トキも人も相手を強く意識しない状況」が理想なんです。

セクション1はここまで。トキの基本について、お話ししました。
次のセクション2では、「佐渡金山とトキ」について。
明治時代にいったん絶滅したと思われていたトキが大正から昭和初期に佐渡で発見されたとお伝えしました。
当時、佐渡がトキの生息地になれたのは、佐渡金山のお陰かもしれないという話を紹介します。 

  • 記事を書いたライター
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TAKASUN-SADO

2025年5月より佐渡に帰郷。空き家になった実家に戻り、ほそぼそ。 ランニング、書道、良い酒と良い時間、コンテンツ作り。

  1.  3.2 世界農業遺産(GIAHS)「トキと共生する佐渡の里山」

  2. 1.3 広がるトキの野生定着

  3. 1.2 トキの野生定着への道

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